特急「海幸山幸」と日南線完乗録
駅メモというソシャゲをご存知だろうか。簡単に言うと駅に来たよ!というスタンプを集める位置情報ゲームである。ポケモンGO、Ingress、ドラクエウォークなどほどではないが、特定の界隈では比較的メジャーどころである。通勤通学のお供のつもりに始めたはずが、今や駅メモのために旅行する人もいるらしい。これは自己紹介である。
これはそんなゲームに振り回され、観光するでもなく盲腸線に乗りに来た男の物語。
はじまり
7:30。男は鹿児島中央駅にいた。朝帰りかと思わせて、特急「きりしま」に乗り込む。自宅に帰ると二度とやる気が湧かない気がしたからだ 。あと「海幸山幸」に間に合わない。
鹿児島中央駅から宮崎駅までは約2時間かかる。この便でなければ乗ることは出来ない。
日豊本線は県境区間が山がちで、速度が落ちる。また、その区間では携帯の電波が届かないことが多い。これは駅メモerにとっては地獄である。レーダーなりで対応したい。
いざ日南線へ
ガタゴト揺られて10:00に宮崎駅に到着。「海幸山幸」の発車は10:07。ギリギリである。向かい側のホームにそいつはいた。
「特急にしてはカクカクだなぁ…。」
「なんか湿ってるし…。」
実はこの列車。もともとはトロッコ型列車として作られた車両に水戸岡パワーと自然の素材を注入し、魔改造した車両である。この湿ってる部分は日南市周辺で取れる飫肥杉が実際に使われている。腐らないのかとても心配…。
内装は他のお客様もいて撮れなかったので、Wikipediaからお借りしたが、こんな感じ。800系新幹線に使われている座席が使われており、気動車にしてはいい乗り心地をしていた。
この写真にも写っているクーラーボックスは車内販売用で、乗務員さんから地元のマンゴーを使ったマンゴーサイダーや地ビール「太陽のラガー」などを買うことが出来る。
僕はビールはダメなので今回は買わなかったが、公共交通機関の中で飲む酒は非日常感を手軽に楽しむことができ、大変美味く感じる。ぜひ1度、人に迷惑をかけない範囲で試していただきたい。
観光列車と言えば車窓を楽しみされる方が多いだろう。この区間は列車にもある「海幸山幸」ので海あり山ありの区間。過酷だからこそ、自然は美しい姿を見せてくれる。
有名な鬼の洗濯板。雄大な自然の力を感じと…
…れないな。過酷なんだから美しい自然を見せてくれよ。干潮時だと沢山の岩の波が見れるそうだ。大潮とタイミングを合わせて来るといいかもしれない。
個人的なオススメは油津から南郷の海岸線を走る区間。特急のクライマックスに相応しい、綺麗な海とそこに鉄道を通すためにかなり無理をしたと思われる人の力を感じるとることが出来る。人の力が垣間見えたことで鉄オタの血が騒いで、写真を撮りそびれてしまった。南郷までは「海幸山幸」1本で来れるのでここまでは楽しく来れるだろう。
11:49。南郷到着。さあ、修行の始まりだ。
ここからが本当の日南線
南郷は西武が春キャンプに来るそうで、地元の学生の手で駅が染められたそうだ。キャンプの時はここも人でかなり賑わうらしい。
ちなみに僕が訪れたのはキャンプが終わってしばらく経ってから。ただのどこにでもある町に戻ってしまった駅前は、静かさに包まれていた。
次の列車は…13:51か。終着駅の志布志まで一本で行けるが、2時間待ちとは、地方路線の本気を見せつけられてしまった。
こういう時、1人より2人の方がいいなと思う。知らない場所の知らない店でも何となく踏み出しやすいからだ。しかし、こんな修行に人を付き合わせる訳には行かないので僕は1人。しばらく歩いて見つけた入りやすそうな店に入る。
地元のマグロ漬け丼。美味かったぜ。
この時点でまだ12:30。暇すぎるのでキャンプが行われていた球場に向かってみた。
平日昼間に坂を登り、住宅街を抜ける。非日常と坂を昇った熱に当てられて汗をかいた姿はあきらかに季節から浮いていた。幸い誰ともすれ違わず、通報されることもなかった。
登りきったところにある球場は、キャンプが終わったのに現れた一般人を見下ろすかのような威容で、ただ静かにそこに立っていた。
無音で佇む建造物を見て、何かを成し遂げた満足感を得た僕は坂を降り、駅へと向かった。
駅では「雨のため、列車が遅れている」と放送がかかっていた。これが地方路線の恐ろしいところ。少しの雨でも遅れが発生し、単線のためにその遅れは逆方向の列車にも波及する。
この日は20分の遅れで済んだが、上手くいっても鹿児島に戻れるのは21時過ぎ。思いつきで巡る地方路線の旅は少しの遅れで当日中に帰れなくなる恐ろしさがある。
この辺りの写真は全く撮っていない。特急が来ていないのに残っているということは、観光需要より地域の脚を重視して残されているだけだ。
ただひたすらに山の中をぬけ、朽ち果てた家の横を過ぎ、誰も乗り降りしない駅に止まる。時折、高校生が塊で乗って、そのほとんどが同じ駅で降りていく。そんなこの路線のルーチンからは営利だけでなく公共性も重視しなければならない鉄道事業の苦労が見受けられた。
そんな事を考えていると終着駅志布志に着いた。
志布志市志布志町志布志
志布志ノルマ達成。
昔はここから先、鹿屋回りで国分まで繋がっていたそうだが、国鉄時代の赤字路線廃止で消えてしまった。 駅前の立派な4車線の通りとこじんまりとした駅に似合わぬ大きなショッピングモールはここに大規模な車両基地があり、その再開発で生まれたことを匂わせる。きっと志布志港への輸送路線として活躍した時代があったのだろう。
しかし、その過去を示すものは跡地の鉄道記念公園の立て看板や静態保存のC58蒸気機関車やキハ52しか残っていない。再開発は記憶を跡形もなく消してしまう。動き始めた衰退の波は止められるものでは無い。
志布志駅前には駅舎の写真を撮る同族の姿があった。しかし、帰ろうとした彼らが向かうのは駐車場に停めてあった車。鹿児島中央駅から列車だと7時間半。車なら高速道路を使わなくとも2時間半あれば確実に着く。どちらが効率的かは火を見るより明らかだ。だが、この過酷な路線の補修にはきっと莫大な金がかかっている。それからすると微々たるものとはいえ、少しはJRにお金を落とす努力はして欲しいと思う。わかる人募集中。
志布志の街は、もう鉄道がなくともやっていける街なのだろう。だが、かつて一大ハブだった歴史は残していくべきだと思う。鉄道があった歴史はその街がかつて果たしていた役割を示すひとつの足跡になるのだから。
おまけ
かわいい子にはぐんま。(名言)
こんなとこまで群馬が広告で進出してきている。
広島カープがキャンプを行う油津の駅。
末期色(真っ黄色)になった地方路線の主役、キハ40。